卒論要旨集

1 Moorella thermoaceticaによる高温ガス発酵プロセス実用化に関わる基盤的研究
西 大成 (代謝変換制御学研究室)

【目的】CO₂とH₂/COから有用物質を生産するガス発酵技術は、カーボンリサイクルの実現に向けた有力な手段として期待されている。好熱性酢酸生成菌Moorella thermoaceticaを用いた合成ガス培養では、前培養時に菌体濃度を得られる糖から、ガス基質への本培養転換時に生じる「増殖遅延」、さらには「非増殖」が問題となっている。そこで今回、糖からガス基質への転換時の培養挙動について詳細を調べ、円滑な合成ガス培養の成立条件を確立することを目的とした。
【方法および結果】植菌細胞量は前培養槽容積を決めるための設計指針となる、そこでフルクトースで前培養したM. thermoacetica野生株菌体(OD₆₀₀=0.5)を、合成ガス(H₂:0.4, CO:0.4 MPa)を基質とする培地(液量50 mL)へ、植菌量1~30% (v/v)の5段階で植菌した。その結果、植菌量1%では顕著な増殖遅延が生じた。一方、10%以上では誘導期は顕著に短縮された。しかし、植菌量の増加に伴い前培養由来の残存糖濃度も上昇していた。そこで、1%植菌条件で糖を追加添加することで糖による誘導期短縮効果を検証したが、糖添加は増殖遅延を解消しなかった。したがって、初期細胞濃度が直接、増殖遅延に影響を及ぼしていることが示唆された。現在、初期菌体濃度と菌体生理の関連について検討を進めている。

2 ガス発酵微生物Moorella thermoaceticaのエネルギー代謝に関わる基盤研究
松本 康平 (代謝変換制御学研究室)

【目的】我々は、H₂/CO₂および合成ガスを基質として酢酸を生成するMoorella thermoaceticaを宿主としたエタノールおよびアセトン生産組換え株の構築に成功している。しかし、H₂/CO₂培養時の代謝速度低下、さらには増殖不能となることが課題である。その原因としてATP生成量の不足が推測されている。ATP生成にはフェレドキシンが電子運搬体として関与するが、本菌には多数のFd候補遺伝子が存在し、どのFdがATP生成に寄与しているかは不明である。そこで本研究は、ATP増産を目的として、Fdの機能解析を通じてATP生成に関与するFdを同定することを目的とする。
【方法・結果】37種のFd候補から、転写解析により複数の候補Fdを選定した。さらに、Fd–酵素間のドッキングシミュレーションの結果から、Moth_2219、Moth_1983を優先候補Fdとして選定した。前任者により製作されたMoth_2219欠損株について、糖やH₂/CO₂、CO/H₂条件下で、比増殖速度、酢酸生成速度、基質消費速度などの比較解析を行った。しかし、非破壊株と比較して顕著な差異は見られなかったことから、Moth_2219はATP合成に関与しないことが示唆された。ついで、Moth_1983欠損株を作製することを目的として、現在、ゲノム中のMoth_1983破壊株の構築を行っている。今後、宿主への導入、ロールチューブ法による形質転換体の選抜・単離を行い、破壊株の作成を行い、同様の表現型解析を行う。